積水ハウス地面師事件、見えはじめた失敗の本質

積水ハウスが約55億円を地面師に騙し取られた、東京五反田の土地詐欺事件が急展開し、地面師グループ8名が逮捕されました。事件の細部が報道されだし、地面師の手口が少しづつ判明するようになってきた今、最も慌てているのが積水ハウスかもしれません。トップ企業としての驕りが有ったのか、不動産会社としては考えられないほどの拙劣さや無警戒さが明らかになってきているからです。

他の不動産会社(複数の)は、地面師たちの持ち込んだ土地(売りに出ないことで有名な物件)売込みに対し警戒度MAXにし、動画や写真を撮ったり、法務局に書類の見立てを依頼したり、なりすまし犯の些細な言動や服装(の質素さ?)などまで細心にチェックした上で、怪しいと見破り取引を止めました。

一方、積水ハウスは「公証人による本人確認」を絶対視してしまい、司法書士が行った面談で、なりすまし犯が本人なら間違えるはずがない干支を間違って答えてもスルーしていたようです。東京の地面師事情に疎すぎたにしても、高額取引に対する驚くべき危機意識・問題意識の欠落です。

売主が移転登記に必要な権利証をなくした場合その代替として、司法書士が極めて厳格にチェックを行ったうえで「本人確認情報」を作成するのが普通です。例外的に使われる公証人による本人認証は、簡便で司法書士のそれより甘いと言われます。不動産取引の修羅場を何度もくぐってきているプロなら、公証人による本人認証が使われることに素朴な疑問を持つでしょう。

◇社長案件

真の所有者からの警告を他業者の「取引妨害」として、残代金決済を当初予定より2か月早めるなどしたのは、本人認証の公正証書は正しいという固定観念と共に何としてもこの取引をまとめたいという焦りを感じます。報道にあるように、この案件が社長案件だったということもやはり影響していそうです。

大企業(でなくとも)で上司に忖度するのは普通です。しかも希少なマンション用地が安く取得でき、かつ自社分譲マンション7億5千万円分を代金の一部で購入してもらえるという案件です。成立に向け加速するこんな大型商談に疑義を呈し、ブレーキをかけるのはまず不可能です。

いずれにしろ、当時の社長の責任を厳しく指摘していた、積水ハウス社外役員らでつくる調査対策委員会による調査報告書の全容が知りたいところです(概要のみ公表済)。

あまり取り上げられていませんが、犯行グループによる7億5千万円分の積水分譲のマンション購入というのは、積水ハウス東京マンション事業部にとって非常に魅力的な話だったのではないかと想像します。売れ残った高級マンションの最後の部分は、利益の塊でメリットは極めて大きいからです。地面師たちが購入を持ち掛けたのなら、在庫処分に悩むマンションデベロッパーの弱みをつく、巧妙な手だと思います。

今回の事件での売買契約の形を整理すると、一旦、地面師グループのIKUTA社が同じ地面師グループの偽所有者から60億円で当該物件の買取契約をし、それを積水ハウスに70億円で転売(他人物売買)するという形式です。

契約は2段階に分かれます。
 ①偽所有者(地面師)⇒IKUTA HOLDINGS(買主:地面師):60億円
 ②IKUTA HOLDINGS(売主)⇒積水ハウス(買主):70億円

②の契約の内訳   
・売買価格:70億円
・手付金:14億円
・残代金:41億5千万円
  被害額は上記計55億5千万円


 
残代金支払いと同時履行された、所有権移転登記申請が法務局で却下されたため、 売買代金のうち支払い留保などで、下記計14億5千万円が被害を免れました。
所有権移転登記完了時までの留保金:7億円(売買価格の10%)
・犯行グループ購入予定のマンション代金相殺分:7億5千万円

中間で買取業者として介在したIKUTA社の転売益は10億円で、そのうちかなりの部分は同社の運転資金に費消されたようです。いずれにしろ相手は逮捕されることも前提にしたプロ詐欺師(?)グループなので、今回被害にあった資金は既に秘匿されその回収は無理と思われます。

固定観念をもったり、契約ありきでしか物事を見なくなれば、正しい情報でも妨害情報とみなすような大きな誤りを犯す危険性があることを痛感する事件でした。

[10月22日追記]
産経新聞ニュースによると、この事件の仲介役IKUTA社の生田容疑者と積水ハウスの担当社員とは数年前から面識があったそうです。売込みに失敗続きの地面師達がそれに目をつけ、生田容疑者をグループに引き込んだということです。
積水側と面識の男、仲介役に 地面師事件

仲介役生田容疑者と面識があったことで積水ハウス側が警戒心を弱めてしまったようです。ただ、生田容疑者のIKUTA社を、ダミー会社的な形(元手は全部積水ハウス)で取引に関与させたとしても、積水ハウスは所有者の本人確認に最大限の注意義務を払って、この取引の安全を期するべきであったことに変わりはありません。

(過去記事:積水ハウス地面師詐欺事件にみる土地取引のリスク





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