積水ハウス地面師詐欺事件にみる不動産取引のリスク

積水ハウスは15日、東京都内の土地購入を巡って約55億5千万円が回収できなくなったとして、警視庁に詐欺容疑で告訴状を提出し、受理されたことを明らかにしました(朝日新聞デジタル)。
同社は、所有者になりすます「地面師」の被害に遭い、売買価格70億円の約8割を支払ったものの購入した土地所有権移転登記が出来ず、登記完了まで支払い留保された代金の一部などを除く約55億5千万円の損害を被ったとみられます。

(2018年2月22日追記:新聞報道では、積水ハウス社内でこの地面師事件の責任を巡って「会長解任」騒動がありました。取締役は11名で前会長側5名、前社長(現会長)側6名というきわどさだったようです。驚きました。)

問題の取引は下記のようなものです。
 ・所在:品川区西五反田の「海喜館」、真の所有者は70代の女性
 ・敷地面積:約600坪
 ・売買価格:70億円
 ・契約相手:IKUTAホールディングス(中間業者)

積水ハウス社の下記ニュースリリースに、「当社の契約相手先が所有者から購入後、直ちに当社へ転売する形式」と記されているので、契約形態はいわゆる「第三者のためにする契約」(新・中間省略登記)形式だったと思われます。契約の枠組みを予想してみました。

三為契約

積水ハウスの契約相手先IKUTA社は、中間業者として流通税は課税されません。また2つの契約は同時進行(同じ銀行の別々の部屋?)です。ただ厳密には中間業者と積水ハウスの契約が先行し、そこで授受された手付金・残代金が(中間業者の取り分を引いたうえで)なりすまし所有者に支払われます。なので中間業者は、元手なしで中抜きができるスキームです。

契約の流れ

売買取引の決済は、残代金支払いと同時に所有権移転登記申請書類を交付するいわゆる同時履行となるので、上記契約の流れはノーマルです。残金決済=登記申請から登記完了まで何日間かタイムラグがあり、念のため売買価格の10%分を支払い留保したようです。ただ、残金から売主の預り金として7億5,000万円が控除されているのは何のためだったのでしょうか。積水ハウスから物件購入の予定でもあったのかもしれません。

事件の経過
事件経過

売主になりすまし偽造印鑑登録証明書や偽造パスポートなどを用いて犯行におよんだ「地面師」グループは、既にほぼ特定されていているでしょうが詐取された約55億5千万円は回収見込みがありません。(本物件の所有権は真の所有者の相続人に7月4日移転しています)
これだけ高額かつ注目物件の取引でもあり、積水ハウス側も弁護士も交え相当大きな注意を払い権原を精査し、所有者になりすました女性との面談にも臨んだはずですが、周到に準備をした地面師グループのほうが上手でした。希少な都心のマンション用地なので、どうしても購入したいという前のめりの気持ちがチェックを甘くしたのでしょう。

同社は8月2日に「分譲マンション用地の購入に関する取引事故につきまして」というIRを発表し、9月7日の平成30年1月期第2四半期決算において、貸倒引当金に計上することなく55億5,900万円全額を特別損失として計上しています。




◇本人確認は難しい

今回のことで、不動産業界やその周辺には、人を欺く事を生業とする人たちが存在することを改めて認識しましたが、この詐欺事件の本質はやはり、「本人確認」の難しさという点にあると思います。

不動産取引において登記名義人が真の売主と限らず、登記には「公信力」がないので、売主が本当に真の所有者なのかの確認は極めて大事です。高齢化や空き家の増加が増えるなか、普通の不動産仲介契約であっても常に健全な猜疑心を持って臨むべきだと感じます。

この詐欺事件に関し、所有権移転登記に必要な権利証、印鑑証明書、実印のうち偽造印鑑登録証明書や偽造パスポートは報道されていますが、権利証については何も触れられていません。地面師グループはどうも「権利証」偽造はしていないようで、代わりに司法書士(公証人)が「不動産登記法に基づく本人確認提供情報制度」により本人確認をし登記申請をしたように感じます。これは紛失などで所有者が権利証を持っていない場合の代替手段です(保証書は不動産登記法改正で廃止されました)。

しかしその場合司法書士には、当然高度な注意義務が課されるので疑念をもたれず欺くことは簡単ではないはずで疑問も残ります。そのへんも含め、積水ハウス社が設置した「調査対策委員会」の調査・検証により、諸々の事実が解明されていくでしょう。

デジタル技術や3Dプリンターの出現などで、偽造技術は格段に進み書類偽造を見破るのは至難な状況になっているようです。専門家が騙されないためには、書面以外に取引の経緯や状況のシビアな確認など経験に基づく職人技的なセンスが必要になってくるような気がします。

また、マンションの買取再販などが増え「第三者のためにする契約」方式が多くなっているようですが、この契約スタイルは真の所有者が見えずらいので注意は必要かもしれません。持ち回り契約と称して売主・買主別々に記名押印させる契約方式もあまり良いものではありません。

不動産仲介契約などでは、売主・買主および仲介業者がテーブルにつき少し改まった雰囲気のなか、粛々と契約手続きを進めるというのが好ましいのではないかと勝手に思っています。

(関連記事:積水ハウス土地詐欺事件の調査概要公表ー拙劣な取引と対応






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