AI(人工知能)と不動産テックとソニー不動産

今、「AI(人口知能)」の話題が連日取り上げられ、ブームのような状況になっています。中でもファイナンス(金融)と人工知能(AI)などテクノロジー(技術)を組み合わせたフィンテック(FinTech)が特に注目を集めています。ちなみに「人工知能」は機械学習を核とする様々な情報処理技術群というようなニュアンスで用いられていると思います。

フィンテックでは、低コストで利便性の高い新しい金融サービスが次々と生み出されています。確かに、株式投資でAIがリスク・リターンを計算し、自動的に自分に合ったポートフォリオを組んでくれ、煩わしいリバランスもやってくれるサービスなら使いたいと思う人は多いでしょう。金融は基本的に数字の世界なのでITとは相性がよく、AI活用でより進化した様々なサービスが今後も生まれてくると思います。

一方、不動産分野でも不動産とIT技術を融合させた「不動産テック」が2015年位から展開されています。しかし不動産売買領域に限れば、現状の「不動産テック」はAIとビッグデータを活用した価格査定的なものが殆どで、多少の便利さはあってもビジネスとして収益化するには難しいレベルのものです。不動産売買仲介業進出を表明していた、求人ポータルサイトの東証一部リブセンス社の「IESHIL」も売上高を大きく伸ばすまでには至っていないようです(同社平成28年12月期決算説明会資料)。

不動産には、例えばマンションの同じ間取りの部屋でも階数、方位、眺望や使い方・メンテナンスの有無で価格差がでる「個別性」があります。そのため、AIと大量の情報・データにより価格査定エンジンが算出する論理価格は、担当者が実査する査定価格の精度には及びません。また、価格査定エンジンがあまり有用とされないのは、仲介物件の一次商圏が同一小学校区内程度と狭く、実際の売買予定者はすでにある程度の相場観を既に持っているからです。マンション売却希望者なら、口コミなどでそのマンション内での成約価格を業者より正確に把握していたりします。

要するに売買領域における現状の不動産テックと称されるものは、ユーザーの満足(またはビジネスとして収益化を期待する)レベルにはほど遠いものだと感じます。やはり、定量的な金融=フィンテックの世界と違い、定性的な情報が多い不動産分野では、AIと情報技術(IT)をもってしてもインパクトのあるサービスの創出は簡単ではないようです。

ただし、不動産売買でも今後「AIアドバイザー」や「人工知能(AI)によるチャット型Q&Aサービス」のようなロボアドバイザー的サービスは増え、不動産投資や賃貸の領域では新しいソリューションが期待できると思います。賃貸物件を「VR」技術により内見なしで契約というようなことも起こり得るかもしれません。

さて不動産テックの代表格だった、不動産を個人で自由に売り出せる不動産売買プラットフォーム「おうちダイレクト」は最近全く話題になりません。そもそも高額かつ「瑕疵」リスクもある中古不動産の個人間売買取引が、ネット完結型に近い形で行われるとは考えにくいです。

不動産テックの取り組みとして「不動産価格推定エンジン」をソニーと開発したソニー不動産自体も、スタートの大誤算から立ち直れない状況が続いているでしょう。

ソニー不動産のスタートアップに関しては、ネット専業で売物件のみフォローするスタイル(片手仲介)で不動産仲介業に進出するという無謀なビジネスモデルに敗因があったと思います。不動産仲介で一定規模の業容を目指すならネット+リアルが必須です。ソニー不動産がネットでいくら「高く売ります」を繰り返しても大手仲介会社は、情報量の多い洗練された自社サイトに加えて「○○号室成約御礼」や「当マンションで今年5件成約しました」などのチラシを折り込んだり投げ込みしたりして「ネット+成約実績訴求営業」で売物件開発を行っています。これでは優良売物件開発競争で太刀打ちできません。

また高額商品の不動産、特に中古物件の購入は誰かに背中を押してもらわないとなかなか決断できないものです。適切なクロージングをしたり重要事項の綿密な調査をするには、物件や地元情報に精通した地域密着リアル店舗のマンパワーが欠かせません。(初めてのマンション購入に当たり散々迷っているとき、販売責任者の一言(殺し文句)で一気に迷いが消え契約に至ったという経験をしました)
いくらAIや情報技術が進化しても、専門知識をもち、意味を理解して創造力のある仕事をするヒトを代替することはできないでしょう。

まもなく平成29年3月期の期末ですが、首都圏新築マンション市場ははっきりと落ち込んでおり、中古マンション市場も連動してダウントレンドに向かう可能性が大きいでしょう。高めに売り出すことがセールスポイント(?)のソニー不動産には特に強い逆風になる局面です。相手のある仲介で相場より高く売れるというのは稀で、妥当な価格で良い買主を見つけ早期売却するのが中古物件売却の王道です。何度も言いますが中古住宅流通は鮮度が命です。

(過去記事:ソニー不動産2期目決算も赤字幅拡大、累損8億円
(過去記事:ソニー不動産は初年度3億円の赤字

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