ソニー不動産は初年度3億円の赤字

得意のIT技術を駆使し不動産流通革命に挑むと、華々しく不動産仲介業に参入した「ソニー不動産」、初年度決算は3億円の赤字に沈みました。両手取引はしない、米国型エージェント制で公正なサービスを行う、 手数料を「率」から「額」に合理化し 顧客満足度No1の不動産サービスを目指すと高い目標を掲げての船出でしたが、出足でつまずいた格好です。あれだけマスコミが大々的に煽っても、売主や買主は冷静だったということでしょう。

官報

ソニーは、社長直轄の新規事業創出部を設け、その取り組み第一弾がこの不動産業への参入でした。会社設立時の資本金は2億5千万円、その後5億4千5百万円→8億4千5百万円と増資されましたが、その株主資本の約37.2%が毀損してしまいました。

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人の関わり部分が大きいはずの不動産取引で、なるだけ客先に出向かず、対面営業を抑えるというビジネスモデル自体に無理がありました。にもかかわらず「営業の本格開始から3年後に株式を上場、5年後に売上高を500億円に増やすことを目指している」と豪語していたのは、不動産取引という高額取引をあまりにも甘く見ていたと言わざるを得ないでしょう。「手数料はかかった分だけ」というコンセプトも的外れです。(分かりにくいし実は安くなかったりする)

三井不動産リアルティと仲介NO1の座を争う、住友不動産販売の仲介業務部門の平成26年3月期は、営業収益526億円でした。全国250強の店舗、仲介部門社員約2650人という陣容での実績です。同社は設立後40年ほどで仲介手数料収入500億円をクリアというわけです。
個別性が強く、地域密着の店舗展開が求められる不動産業で、片手取引主体、少店舗・少要員で対面営業もほぼなし、それで5年で住友不動産販売並みの売上高(営業収益)500億円という目標設定は(仲介業務だけではないにしても)無茶だと思います。

ソニー不動産が掲げる片手仲介主体で事業が成り立つのかどうか、住友不動産販売の平成27年3月期決算短信セグメント情報で同社の手数料率を調べてみました。住友不動産販売全社での手数料率は5.1%なので、ほとんどが両手取引だったと思われます。
面白いのは、お金にシビアな関西の方が首都圏より手数料率が高いというところです。ただ、これは首都圏の方が高額物件の取引が多いため、手数料割引要請があったり、片手取引が増えたためと思われますが、関西でも取引がスムースに行われれば、仲介手数料満額支払いにそれほど抵抗がないということなのでしょう。

住友仲介手数料率
(注:営業収益に部門間の振替高や内部営業収益も加算されています)

一方、昨年ソニー不動産が子会社化した「売却のミカタ」企画運営の株式会社「不動産仲介透明化フォーラム」の方は利益が出ています。会社のこれまでの利益積立額である利益剰余金を見ると殆んどが「当期純利益」となっているので、ソニー不動産傘下に入って利益急増というパターンのようです。

売却のみかた

一般的に店舗開設時には、一気にリソースを投入し新規開業プレミアムとでもいうような賑わいを創出し、その勢いで経営を軌道に乗せるというようなやり方が多いと思います。ソニー不動産に関しては、助走期間をあれだけ長くとり、メディアを異常なほど活用して(ステマと思うもの多し)このテイクオフ失敗なのでダメージが大きいでしょう。初年度だからこれくらいの赤字は、という見方は甘いと思います。

ソニー不動産のホームページを見ても最も大事な「歓迎感」が全く出せていません。物件の掲載もないので、これではリピートのしようもありません。高いというITスキルはどこに生かされているのでしょうか。このままで、業績がV字回復するのは無理です(ソニーグループ内の取引や建築・リフォーム事業などで目先の数字作りは可能でしょうが)現状では、優秀な人材の確保や育成などとても出来る状況ではないだろうと感じます。

元ソニーファンでかつ不動産業界に土地勘のある者としては、SONYの不動産業進出には「何とバカなことを」というのが正直な気持ちです。ただ、早々に資本準備金の大半に相当する損失を計上するに至ったいま、経営陣は戦略大転換のチャンスと捉え、現実路線への切り替えをするチャンスではないかと思います。

ちなみに、このブログにも「住友囲い込み」「三井両手仲介」などの検索ワードでこられる方が多いのですが、特に「ソニー不動産」誕生以来、両手取引=物件囲い込みは「悪」というイメージの宣伝が多くなったように感じます。

ユーザーである個人顧客が両手取引を問題にしている訳ではありません。大手仲介会社の売物件情報にフリーライドしたい非大手業者とその周辺業務を行う事業者のポジショントークとしての両手取引(それにつながる囲い込み)反対が多いと見ています。

高額な仲介不動産物件のトラブルリスクは決して小さくありません。売主の多くが、各種保証制度が整いかつコンプライアンスが徹底されている大手仲介会社を選好することは自然な流れです。一生で1~2回位しかしない不動産取引では少々の価格差よりも安全に取引したいというニーズが勝っているのだと思います。囲い込みは悪という一方的な宣伝で顧客(売主)の行動が大きく変わるはずがありません。

「不動産仲介透明化フォーラム」的なニッチ狙いならまだしも、ソニー不動産が本気で不動産流通業に取り組む気なら、両手仲介禁止や手数料変動制などというバカげた、意味のないくびきを断ち切り、売主の真のニーズにマッチするような事業モデルに練り直す荒療治が必要かもですね。

[追記]
7月7日の日経新聞朝刊に、「ソニーとヤフー、不動産分野での資本・業務提携」の記事がありました。ソニー不動産にヤフーが 出資し、インターネット上で消費者同士が中古住宅を売買できるサービスを 立ち上げるというようなことです。詳細は分かりませんが、簡単ではないでしょう。車の個人間売買すら盛り上がらないのに、まして不動産をネットで売買するでしょうか。決して筋のよいビジネスモデルとは思えません。創業時の目論見どおりにはいかず事業領域を変えようとしているようですが大丈夫でしょうか。ソニー不動産の創業を賛美していた方々は「まだまだ投資フェーズ」とか言うのでしょうね。

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